インバウンドフレンドリー奈良を目指そう! 第7回:京都のような観光公害に奈良もなるの?(その1)

京都のような観光公害に奈良もなるの?(その1)

第7回:京都のような観光公害に奈良もなるの?(その1)

みなさん、こんにちは!
私のコラム「“インバウンドフレンドリー奈良”を目指そう」今回のテーマは、「観光公害」についてです。ちょっと内容が手ごわいです。厳密な分析をしたらページが足りませんので、なるべく簡潔にと思って書き始めましたが、結局今回は2本立てになっております。お付き合いください!
(第6回のコラム未読の方は以下のリンクから)

観光公害って何だ?

観光公害とは、観光客が増えすぎたり、一か所に集中しすぎたりして、その地域の自然環境や生活環境等が悪化するようなことを言います。オーバーツーリズム(Overtourism)と言われることもあります。他国の都市における人が押し寄せる観光公害ですとベネチアやアムステルダムが今問題になっています。[*1]
今回は、すでに観光公害問題が顕在化して、対策を打ち始めている京都を参考に、よりインバウンドが関係する問題は何で、奈良に住む私たちはどのようにこの問題をとらえ、よいバランスを目指していけばよいのかを考えてみたいと思います。

奈良で起こってる観光公害ってどんなの?

最近、奈良で起こっている、観光公害または、その予兆と思われるようなできごとにはどのようなものがあるでしょうか? 報道等で取り沙汰されたり、個人的によく聞いたりするものを少し挙げてみますと、
1)ハイシーズン(観光によい季節、期間)になると、県庁と若草山間で道路渋滞となり、移動に30分程度かかる。
2)神社の境内や公園内の木の枝を折って持ち歩こうとしたり、鹿に餌としてやろうとしたりする。中国の方が鹿によく襲われケガする。
3)住居の表札の前や、車など往来ある道路の真ん中で写真を撮る。
4)飲食店が混みすぎる。食事中も観光客で声が大きいグループ等が気になる。飲食店・宿泊施設で外国人利用人数が増えすぎると日本人が来なくなる。
5)外国人が好む派手な色で、外国語看板が増えると街の風情が損なわれる。

どうでしょうか?皆さんも思い当たることがありますでしょうか?

月に何十万人または何百万人来たら公害発生率が高くなるとかという定義付けはできないと思いますが、年間インバウンド来訪者数を住民人口と対比させ、住民側不快が高くなる可能性の参考としている見方もあります。これでいくと、京都市で37倍、奈良市では6倍です。[*2] さて、では、奈良と京都の観光客規模の違いをもう少し詳しく確認してみましょう。

奈良と京都の観光客データ比較

まず、入込者数(日帰り・宿泊両方含む)で見てみたいのですが、現在都道府県や市町村ベースでは外国人のみの入込者数データがないので、日本人含め全数で奈良市と京都市を比較してみましょう。

【図16 2017年月別入込客数】(出所:奈良市観光入込客数調査報告および京都市観光総合調査)

【図16 2017年月別入込客数】 (出所:奈良市観光入込客数調査報告および京都市観光総合調査)

奈良市は京都の2割から3割強程度の入込です。規模が全く違いますね。一か所(例えば奈良公園周辺)に同時間帯に人が集中しないことを意識した緩和施策などを考えることが大事であり、決して月あたり約百万人レベルの奈良入込客数をこれ以上増やしてはいけないということはないのかなとも思えます。

さて、宿泊者数の実績では、インバウンドのみのデータが入手できますので、京都と奈良でどうちがうのか比較してみましょう。

【図17 2018年1-12月 月別宿泊者数実績】(出所:観光予報プラットフォーム)

【図17 2018年1-12月 月別宿泊者数実績】
(出所:観光予報プラットフォーム)

奈良市のインバウンド宿泊者数は、おおむね京都市の3割から半分弱までの間を推移しています。入込客数より、宿泊者数の規模では奈良市は善戦しているようですが、よく見ると京都ほど奈良では季節間の大きな変動があるわけではなさそうです。奈良は冬が閑散期とは言うものの、京都ほど極端な差が出ていないのがわかりますね。
ただ、実際での店舗や宿泊施設での来店客数、売上、稼働率の実感では季節間や平日休日の差が相当あるとよく聞きます。駅から奈良公園方面の人の大半の流れる場所である三条通などと比べ、例えばならまちや高畑では、繁閑季節差、曜日の差がかなり激しいようで、入込客の底上げは課題と考えておられる店主様も多いようです。[*3]

京都で起こっている観光公害の例

では、京都で起こってしまった観光公害の例を挙げてみましょう。京都に行かれた方はご自身が同様のことを体感されたかもしれませんね。

観光公害 例 インバウンド客との因果性
渋滞・路上駐車、公共交通機関の待ち時間増加 低(人数では圧倒的に日本人多い)
白タク行為増加 大(中国人韓国人業者多い)
騒音・ゴミ増・住居敷地立入覗き込み・落書・植栽毀損 一定程度あると考えられる
外国対応商店増加による景観悪化、民泊増加による町並みの悪化
生鮮食品毀損、地元客離反
賽銭箱外貨投入、芸舞妓へのストーキング

【図18 京都市観光公害の例】(野村総研「求められる観光公害への対応」、他報道資料等からの情報に弊協会がインバウンドとの因果性を考慮して作成)

以上の各問題を整理してみると、インバウンド客の方々にマナーを守ってもらえればある程度改善できるものと、きちんと当局が取り締まり、制度、インフラ整備をするべきもの、そして国籍に関係なく、人数が増え、一時、一か所に人が集中すること自体で起こっている問題に分類できますね。
先ほど最初に挙げた奈良の観光公害と思われる問題も、上記京都と同様に後程分類してみます。

京都で取られている対策

京都では前述したような観光公害問題に対し、どのような対策が実際にとられているのでしょう。対策事例を見てみましょう。

【図19 京都における観光公害対策の例】(出典:野村総研「求められる観光公害への対応」より抜粋)

【図19 京都における観光公害対策の例】
(出典:野村総研「求められる観光公害への対応」より抜粋)

京都市がとっている対策におけるキーワードは「分散」、「混雑緩和」、そして「マナー啓発」です。
「分散」施策では、1日のうちでの時間的分散(朝・夜時間への誘導)と他名所へ誘導する地理的分散、そして季節的分散を促す施策が数々取られています。「混雑緩和」では駐車場予約制度導入や、バスから地下鉄への利用シフト誘導などが実施されています。また、多言語でのマナーガイドパンフなど配布による啓蒙活動も実施されていますね。

次に先ほど最初に挙げた、奈良の問題を京都同様インバウンド因果度合いで分類し、かつとるべき対策種別も考えてみましょう。

観光公害 例 インバウンド客との因果性 対策分類
ハイシーズン(観光によい季節、期間)になると、県庁と若草山間で道路渋滞となり、移動に30分程度かかる。
(人数では圧倒的に日本人多い。外国人入込比率約12%)
混雑緩和策
神社の境内や公園内の木の枝を折って持ち歩こうとしたり、鹿に餌としてやろうとしたりする。中国の方が鹿によく襲われケガする。 マナー啓蒙
住居の表札の前や、車など往来ある道路の真ん中で写真を撮る。 マナー啓蒙
飲食店が混みすぎる。食事中も観光客で声が大きいグループ等が気になる。飲食店・宿泊施設で外国人利用人数が増えすぎると日本人が来なくなる。 マナー啓蒙
外国人が好む派手な色で、外国語看板が増えると街の風情が損なわれる。 規制

【図20 奈良市観光公害の例】(報道資料等からの情報に弊協会がインバウンドとの因果性を考慮して作成)

眺めてみてどうでしょうか?インバウンドが関係する項目は多いですが、でもマナー啓蒙をきちんとやり続けていくことが大切であると思います。
我々日本人も60年代から80年代にかけては、海外旅行中の他国での文化適応ができず、マナーを守れず、爆買いをするのが目立ち、欧米人から野蛮扱いされていました。[*4]
啓蒙するという努力をせずに、ただ数が増えれば風紀が乱れる確率が高くなることだけを恐れていてはいけないのではないでしょうか?
「旅の恥はかき捨て」という言葉がありますが、これは、旅人を受け入れる側の人々が寛大な心で接してあげようというのが本来の意味だという説もあります。

奈良における施策の方向性について

さて、以上のお話をもう一度整理して、奈良が目指すべき方向を整理してみましょう。
一部の問題は認められるものの、京都同様対策を講じることはできそうですし、早めにできるならしたほうがよいですよね?また、京都ほどの入込・宿泊者数多数ということもなく、ならまちなど目抜き通りから距離がある区域での閑散時期の実感来客数は非常に少ないと言われています。
そうなると、方向性としては、京都同様、「分散」、「混雑緩和」[*5]、「啓蒙」を早めに充実させていきつつ、ならまちなどの区域でしっかりと各店舗さんがインバウンドからの売上を確保いただけるように入込の底上げ施策も積極的に実施すべきだと考えます。[*6]
もっと言えば、これは当協会の持論ですが、高野山に向かうフランス人をはじめとする欧米人が多いので、彼等に桜井、長谷寺、明日香、高取、吉野などを経由して高野山に行ってもらうルートおよびタイムテーブル、および訪問場所を具体的にお勧めすることでより広域な「分散」が可能になると考えています。[*7]

[*1] イタリアのベネチアでは、大型クルーズ船来高頻度増により、港湾水質汚染・悪臭等被害発生したため入港制限開始。また、オランダのアムステルダムでは、市内への観光客流入を抑制する為、中心部の宿泊業や観光客向け店舗の新規営業を禁止、近郊観光地を宣伝して拡散を図っています。
[*2] ベネチア島では400倍、アムステルダムで21倍、神奈川県鎌倉市で125倍、岐阜県高山市では50倍です。
[*3] これまで当協会が何軒かの当該地域店主様や寺院様に伺った範囲の情報です。
[*4] [ハワイの基本情報] ★日本人のマナーが悪い?ハワイで気をつけたいこと
日本人観光客も昔はマナー違反していた
[*5] 奈良市における「分散」、「混雑緩和」の最も重要なポイントは、やはり奈良公園地域への流入コントロールだと考えられます。ハイシーズンでも春日大社方面まで一時訪問のバスや乗用車が多く行き過ぎないよう、手前県庁近くでのコントロール策(バスターミナルや駐車場増設)が進められています。この効果や新たな課題もまた報告されることでしょう。
[*6] もちろん、商業施設や観光の目抜き通りに一般の方々の住居が点在しており、観光客が増えてほしくないと思われておられる方もいらっしゃると思いますので個別調整の努力は必要ではありますが。。。
[*7] 欧米人が海外旅行情報を調べる主要サイトのうちの一つである、Lonely Planetでは、なんと奈良公園近辺情報のページと明日香や吉野が全くページ間のリンクもなく、独立した別の訪問場所として掲載されています!全く周遊の提案がありません。残念ですね。

次回、その2予告

次回では、今回のテーマの続編その2として、ならまちを例にとり、インバウンドが評価するならまちの良さを明確にしたうえで、各店舗様等の活性化と公害の抑制バランスの在り方を考えてみたいと思います。

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